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Transact-SQL

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

Transact-SQL (T-SQL) は、マイクロソフトSybaseが独自に拡張したSQL言語である。マイクロソフトによる実装は Microsoft SQL Server として出荷されている。Sybase ではこの言語を Sybase SQL Server の後継である Adaptive Server Enterprise で使っている。

SQL を強化するため、次のような機能が追加されている。

  • 制御フロー言語
  • 局所変数
  • グローバル変数
  • 文字列処理、データ処理、数値処理のための各種関数。
  • DELETE文とUPDATE文の強化

制御フロー言語

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Transact-SQL の制御フローのためのキーワードとしては、BEGINENDBREAKCONTINUEGOTOIFELSERETURNWAITFORWHILE がある。

IFELSE によって条件付実行が可能となる。例えば、日付が週末であれば "weekend" と表示し、そうでなければ "weekday" と表示するといった処理が可能である。

IFDATEPART(dw,GETDATE())=7ORDATEPART(dw,GETDATE())=1PRINT'It is the weekend.'ELSEPRINT'It is a weekday.'

BEGINEND は文のブロック化を可能とする。例えば、上記のコードで複数の文を条件付で実行する場合、BEGIN と END を使って次のように書く。

IFDATEPART(dw,GETDATE())=7ORDATEPART(dw,GETDATE())=1BEGINPRINT'It is the weekend.'PRINT'Get some rest!'ENDELSEBEGINPRINT'It is a weekday.'PRINT'Get to work!'END

WAITFOR は、指定された時間だけ待つか、指定された時刻まで待つ。遅延制御に使ったり、指定時刻まで実行をブロックするのに使われる。

RETURN は、ストアドプロシージャや関数から即座に戻るときに使う。

BREAKWHILE ループからの脱出、CONTINUE はループの次の繰り返しへの飛び越しである。WHILE ループの例は下記にある。

局所変数

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局所変数は実行中のスクリプト内でのみ使われる。Transact-SQL はユーザー定義の広域変数をサポートしていない。

DECLARE によって変数名と型を指定して変数を宣言する。SET 文で値を代入し、その後の文で変数名を使うことでその値を参照できる。

次のスクリプトは整数の変数を宣言し、値を初期化し、WHILE ループで処理を実行している。

DECLARE@CounterINTSET@Counter=10WHILE@Counter>0BEGINPRINT'The count is '+CONVERT(VARCHAR(10),@Counter)SET@Counter=@Counter-1END

このループ本体は、変数の値を含むメッセージを表示し、その値をデクリメントするものである。

変数の初期化は次のようにもできる。

DECLARE@ArticleCountINTSELECT@ArticleCount=COUNT(*)FROMArticlesINSERTINTOSizeLog(SampleTime,ArticleCount)VALUES(GETDATE(),@ArticleCount)

これは、Articles 表の行数を取得し、その値と現在時刻を SizeLog 表の行として挿入するものである。

グローバル変数

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グローバル変数は実行中のスクリプト内での様々なステータスを監視・取得ができる。 Transact-SQLではグローバル変数は主として@@で書き始める。

良く使われるグローバル変数としては以下のものがある。

@@ERROR 直前に実行したクエリのエラー状態を保持

@@ROWCOUNT 直前に実行したクエリの処理数を保持

@@FETCH_STATUS 現在実行中のカーソルのFETCH状態を保持(@@FETCH_STATUS = 0の場合、正常終了)

下記にグローバル変数を利用したエラー処理の例を示す

  • クエリ実行時のエラーハンドリング
DECLARE@ERROR_STATUSINTSET@ERROR_STATUS=0SELECTDATEFROMCALENDARWITH(NOLOCK)WHEREYEAR='2007'ANDMONTH='01'--グローバル変数@@ERRORにて直前のクエリのエラー状況を取得--0の場合はエラーなしSET@ERROR_STATUS=@@ERRORIF@ERROR_STATUS<>0BEGINPRINT'ERROR OCCURD'RETURNEND
  • UPDATE実行時の該当件数が無かった場合のエラーハンドリング
DECLARE@ROW_COUNTINTSET@ROW_COUNT=0UPDATECALENDARSETDATE=GETDATE()WHEREYEAR='2007'ANDMONTH='01'--グローバル変数@@ROWCOUNTにて直前のクエリの結果件数を取得SET@ROW_COUNT=@@ROWCOUNTIF@ROW_COUNT=0BEGINPRINT'NO RECORD UPDATED'RETURNEND

DELETE文とUPDATE文の変更

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Transact-SQL では、DELETE文とUPDATE文にFROM節を指定可能となっている。

次の例では、'Idle' フラグの立っている全ての users を削除する。

DELETEFROMusersasuJOINuser_flagsasfONu.id=f.idWHEREf.name='Idle'

カーソルの実装

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Transact-SQL では、CURSORを使用することで、テーブルを逐次処理することが可能である。

次の例では、CURSORを利用し、CALENDARテーブルを条件分けしながら更新する処理である。

--カーソルの定義DECLARECUR_CALENDAR_UPDATECURSORFORSELECTYEAR,MONTH,DAYFROMCALENDAR--変数宣言/初期化DECLARE@wk_yearCHAR(4)DECLARE@wk_monthVARCHAR(2)DECLARE@wk_dayVARCHAR(2)SET@wk_year=''SET@wk_month=''SET@wk_day=''--カーソルを開くOPENCUR_CALENDAR_UPDATE--カーソルより最初の1行を取得FETCHNEXTFROMCUR_CALENDAR_UPDATEINTO@wk_year,@wk_month,@wk_day--カーソルで取得した行が終端に達するまで処理を継続するWHILE@@FETCH_STATUS=0BEGIN--カーソルで取得したYEARが2006より大きい場合は処理を行うIF@wk_year>2006BEGINUPDATECALENDARSETDATE=GETDATE()WHEREYEAR=@wk_yearANDMONTH=@wk_monthANDDAY=@wk_dayEND--次の1件を取得するFETCHNEXTFROMCUR_CALENDAR_UPDATEINTO@wk_year,@wk_month,@wk_dayEND--カーソルを閉じるCLOSECUR_CALENDAR_UPDATE--カーソルのメモリを開放DEALLOCATECUR_CALENDAR_UPDATE

批判

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Transact-SQL はPL/SQL同様、機能を追加することで SQL 標準との互換性が損なわれているだけでなく、SQLが本来保持すべきモジュール性を破壊していると批判されている。換言すれば、Transact-SQL の追加機能は普通ならプログラミング言語や埋め込みSQLに実装されるべきものである。そのため、制御構造をプログラミング言語でも SQL でも指定可能になってしまい、混乱が生じる。

関連項目

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外部リンク

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